――突きつけられたのは、無意識に逸らし続けていた真実(ほんとう)
瞳 / ゴールデン / ソープオペラ
自ら片目を潰し入院したキラが退院した次の日のことだ。
入院していた以前のようにとはいかないが、一度は最悪まで絡んで拗れてしまったアスランとキラの関係に平穏という静けさが訪れて始めた時期だったと思う。
キラの見舞いに来たのだと、玄関で開口一番に告げたフレイ。
肝心のキラは、入院中に見舞えなかったことを悔いていたラクスに会いに行っていて、不在であった。
ラクスと懇意にしているフレイがそれを知らないわけがないのに、このタイミングでキラを訪ねること自体が不自然で、アスランは首を傾げる。
無愛想に差しだされた形だけのお見舞いの花束を受け取って、家の中に通した。
重たい沈黙に浸されながらコーヒーを飲んでいたところ、唐突にフレイが口を開く。
「キラの気持ちにはどう答えたの?」
「…知ってるのか」
「気づいたのは、あなたと変わりないくらいの時期だったけれどね」
「…………」
何もかも見透かした灰黒色の瞳には否とは言わせない力強さが秘められていて、何も言えなくなってしまう。
「鈍感って罵ってやりたいけど、私もあの子の口から聞かされるまで微塵も気づいてあげられなかった」
きっとキラの周りにいた誰一人、彼の心が病んでしまう一歩手前まで抱え込んでいた苦悩に気が付けなかった。
いい大人がよってたかってどうしようもないと溜息を吐くべきか、それとも大人にさえ悟らせなかったキラのポーカーフェイスに驚くべきか。
でもね、と彼女の言葉はさらに続く。
「あの子の想いを否定する権利なんてないのよ。他の誰でもない、あんただけは…」
「――っ」
「本当は分かってるんでしょう?でも認めたら、変わらざる得ないから認めてないだけで」
「…違う」
「あら、違わないわ。あの子が育んできた気持ちが、あの子だけで大きくしたものだと本気で思ってるの?本当に分かっていないなら、あんたは救いようもない残酷で愚鈍な人間よ」
キラが抱いてしまった決して許されない恋心。
子どもが親に、恋人としての「好き」を抱くなんて滅多にありはしない。
その理由は倫理や道徳に反するからといった教科書に載っているようなものだけでなく、もっと本能的な部分にもある。
恋とは、一人だけでするものではない。
独りよがりな感情は憧憬の枠を外れることはないし、自分の心だけに喰い込んでずたずたにして傷つけるほど自傷的でもない。
「あの子が親であるはずのあんたを“好き”になったのは、少なからずあんたもあの子をそういう意味で好きだったからよ」
「違うっ!そんなはずない」
「望みがあるから無意識に感じ取ったあの子の感情は膨れる。そうして、大きくなった感情をあんたの中の感情も呼応して膨らむ」
まるで悪循環のように、膨らみ続ける想い。
しかし自覚していたキラに対し、自覚していなかったアスランは親としての態度を崩さない。
無意識では感じ取っているはずなのに、理解しきれていない彼の心は惑乱し、親に持っていけない感情の種類に嘆き絶望する。
いけないと分かっても、失くそうと思っても、互いの想いが共鳴してその存在の大きさを知らしめる。
「好きになったのはあの子自身の問題かもしれない。けれど心が押し潰されるくらいに大きくしたのは、あんたにも責任がある」
「俺が誰かを好きになるなんて、そんなことあるはずがないんだ」
それでは、あの真っ白に燃えてしまった恋はどうなるんだ。
生涯でただ一度きりの恋としたからこそ、この胸の中にある焦燥感は一生消えることなくアスランの胸を苛み続けてくはずなのに。
頑なに否定し続けるアスランの様子に肯定させるのは無理と判断したのだろうか、フレイア小さな溜息を吐いて静かに席を立った。
「…知らないふりをするってわけね。なら、他の誰かの取られてから死ぬほど後悔すればいいわ」
最初から返事は期待していないらしく、さっさと退出していく背中をぼんやり見つめるだけで玄関まで見送らなかった。
切なげに細められたエメラルドとアメジストが脳裏にチラついている気がする。
けれどきつく目を閉じ、見ないふりをしてやり過ごした。