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――大丈夫、あなたの淋しさを僕がなくしてあげるから

自分を顧みようする前に、いつも相手のことばかり考えている。
あの日、父が泣き崩れて淋しさを淋しさと自覚しないままに吐露した本音に触れられた瞬間、キラの中で燻っていた不満や不安など綺麗になくなってしまった。
変化のきっかけは父の涙に違いないだろうが、それがすべてではなく、ゆっくり過ぎていく穏やかな月日が幼い心を成長させてきた。
今では気負わずに笑顔を浮かべられるし、優しい親として触れてくる大きな掌の感触を素直に嬉しいと感じる。
恋人じゃなくたっていい。ただ親を純粋慕う子どもにはなりきれないけれど、父がそれでかまわないならば、どんな愛情だって受け止めるし与えたいと本気で思った。

けれど、長年苛んできた負の感情は易々と克服できるほど生温いものでもない。簡単ならば、当の昔に打ち消せたはずだ。
たとえば、それはふとした瞬間。
夜中に目が覚めて、隣に眠っている父の気配がするほうへと擦り寄ると、呼応したかのように長い腕が背中に回され、胸に抱き込まれる。
緩やかな熱に包まれてうとうとと心地良い睡魔にに誘われ、意識の底へと落ちていこうとするとき、ものすごい力で眠りから引き上げられる。

「…キラ」

耳元に囁かれた吐息のような寝言。
無意識だからこそ、その人の本心を鏡のように反射させた真実の音。

「――ぅ」

眠気など彼方に吹き飛んで、自分の親ながら見惚れてしまうような秀麗な寝顔を凝視してしまった。
甘く蕩けてしまうような音が誰を指し示しているかなんて、考えなくても分かる。

この一途な人がとびきりの声で呼ぶのは、自分じゃないたった一人。

身構えている時ならば、さしたる衝撃を受けなくなったし、胸の奥のほうで僅かに疼く痛みに知らない顔ができる。それは強がりじゃなくて、我慢できない苦痛ではなくなったと言ってもいい。
一つ一つ歳を重ねるごとに広くなる世界に比例し、膨大な種類と量の感情を目のあたりにしてきた。13の頃はそれしか抱けなかった痛みの大きさを埋めるかのように楽しさや安らぎが、鋭利な痛み少しずつ和らげていってくれた。
人はこれを強さというのかもしれない。
昔みたいにすぐに涙が零れるなくなった。自分ばかりが不幸だと被害妄想に耽けることもない。母親がいないために自然と家事はこなせるようになったし、家事に留まらず自分の身の周りのことは大抵一人でできる。
でも、それでも、

(時々、泣きたくなるんだ)

声を張り上げて、叫びたしたくなる衝動に突き動かされるままに、胸に仕舞いこんだぶちまけられたら、鉛のように詰まった部分が軽くなってどれくらい楽になるだろう。
でも楽になるのは激情に駆られたほんの一瞬だけで、平静を取り戻せば死ぬほど後悔して同じだけの鉛をまた胸に溜めてしまうことも分かっていた。
どうせ同じならば、口に出すべきじゃない。
言ってしまえば、必ずアスランを傷つけるのは明白で、自分の苦悩を思い知らせたいと思うと同時に、もう二度と打ちひしがれるような悲しみに触れてほしくないとも願う。
気づいてほしいけれど、気づかれたくないという相反した気持ちが複雑に絡み合って、音にならない数々の言葉。
そうして、今夜も一人きりで唇を噛みしめる。
込み上げる嗚咽とも悲鳴ともつかない膨大な塊を何度も呑み込む。
すぐ傍には大好きな人がいるはずなのに、どうして自分はそれだけで満足できないんだろうと己の欲深さに溜息を吐いた。



――でも、あなたを癒したいと願ったのは、僕の本当の心(きもち)



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