――いつも後悔ばかりしている
――伸ばした指先はいつだって届かないまま、空虚にぶらさがるだけ
叶えられることのない約束
小さな頭に巻かれた包帯と右目を覆う眼帯の白さが痛々しい息子の姿が映し出される。
ここ数日の看病で常に見ていたけれど、とうとう見慣れることはなかった。
むしろ日を増すごとに透明感と儚さばかりが色濃くなる雰囲気に、見舞いにくるフレイやディアッカが本気で心配をしていた。ミリーなどは泣き出すほど、病室のベッドの上にいるキラに生気がなかった。
あんな姿を毎日見ているしかできなくて辛いでだろう、と口々に悲しみを共有してくれようとする人たちの言葉に曖昧に頷きながら、心の中では全く異なる感情が渦巻いている。
無機質な横顔を眺めているだけで、すべて諦めたかのような空っぽな左目を見るたびに、日に日に細くなっていく体に触れるたびに、湧き上がってくる本能的な激情。
腹の底から込み上げてくるのは、まぎれもない怒りだった。
(どうしてそんな顔をする…っ)
もう二度と右目が元には戻らないと申告されたというのに、そんなことどうでもいいという顔で簡単に頷けるのか。
泣き叫んで嫌だと言っていれば満足なのだろうかと考えるが、それもアスランが求めているものではないと思い、ただ黙って言葉では表現できない複雑な感情を呑み込んだ。
何もかも諦めてしまった遠い眼差しは、あんなにも好きになってくれと泣き叫んだアスランのことさえ、もうどうでもいいかのようにすり抜けてしまう。
それでも多忙を極める軍務の合間をぬうように病院へと通い、キラの身の回りの世話をしていたのは大人気ない意地だった。
病室は決まって無言で、黙々と動き回るアスランに表情一つ変えずされるがままに身を預けている。
こちらを見ない瞳にも、一言も紡がれない唇にも、微動だにしない指先にも、渦巻く怒気を胸中で生々しく感じながらも、それをぶつけることはしなかった。それぐらいの分別はまだ、保てた。
キラの右目を見るまでは。
「息子さんの視力が戻って良かったですね」
何が良いものかっ。
親切な看護師の言葉にぐっと掌を握り締め、喉元まで出掛かった叫びを押し留めた。
彼女たちは何も間違ったことを言っていない。
ただ純粋に手術の成功を喜び、そして患者の親族に労わりの言葉をかけているだけだ。
だから、自分が狂い叫ぶように罵るのは間違っていると何度も言い聞かせる。
それでも理解できるが、納得できない。
扉が閉まり、病室に二人だけ残される。
目線の先には息子の横顔がある。
約一ヶ月ぶりに痛々しい包帯を外した容貌は、アスランの記憶にある少年とぴたりと重ならない。
たった一箇所異なるだけなのに、こんなにも印象を変えてしまうなんて思っていなかった。
その容貌のほとんどが母親譲りで、父であるアスランとの唯一の繋がりだったのに。
目に見えるものに捕らわれてしまう自分が愚かなのかもしれないが、他の誰でもないキラがその繋がりを拒み厭っていたことが許せなかった。
満足か、とずっと保っていた沈黙を破る。
あるはずのない紫紺が見える度に、殺意にも似た真っ赤な感情が視界を染め上げる。
あんなにも綺麗だったのに、お父さんの色と同じだねととろけるような表情をして笑い合っていたのに、
(お前にとってはもう、重荷でしかなかったのか…)
特別だと思っていたのは自分だけだったなんて、一方的に想い続けていた不毛なものだったなんて。
それでは彼女のときと、同じではないか。
何度も追いかけて、こちらに来いと呼びかけて、必死に手を伸ばしたのに結局自分では掴めなかった。
漸く、自分の元へと戻ってきた華奢な体を抱きしめたと思ったのに、知らぬ間にするりと腕をすり抜けて広大な宇宙へと呑み込まれてしまった愛しい少女。
いつだって、自分は大切なものをこの腕の中で抱きしめ続けられない。
「泣かないで」
胸元へと引き寄せられ目元を小さな指が拭ったときに、初めて自分が泣いていることを知る。
そして怒りと認識していた感情が、果てない悲しみだったと涙の熱さに気づかされた。