――あなたが紡いだ言葉だからこそ
――こんなにも絶望的な心境になってしまうのだと思った


自分だけのものであれば



一切の嫌悪も軽蔑も入り混じっていない透徹とした瞳がまっすぐとキラを見つめていた。
実の父親への禁忌の想いを打ち明けた後とは思えないような、静かで厳かな雰囲気が二人を包み込んで、知らずに肩に不自然な力が入る。

「女だったら――」
「え?」
「あんたが女だったら良かったのに」
「――っ」

言の葉の持ち主が彼女だったから、姉と慕うフレイだったから、瞠目し息を詰めた。
震えた指ではカップ1つ満足に持てなくて、みっともない音を立ててソーサーへと戻す。
そして顔を上げられないまま、震えを抑え込むように膝の上でぐっと掌を握り締めたけれど、震えは指先に留まらず全身を侵食していった。

「…そうしたら、」

掠れた声が、震える。
だって、その言葉はキラの存在そのものを危うくさせる。

「そうしたら、父さんは僕のこと愛してくれた?」
「…そうね、」

躊躇いがちの肯定が彼女の言葉の真実味を帯びさせ、そして絶望的な状況を再び思い知らされる。
身構えていた衝撃のはずなのに、情けないことに孕みだした痛みに悲鳴を上げそうになった。
肯定は、キラがキラであることを否定することと同義を意味する。
誰かに救いを求めたわけじゃなかった。
それでもこうやってぐちゃぐちゃになった自分の胸の内を曝け出したのは、どこかで慰めの言葉を期待していた。
大丈夫だと、辛かったね、と優しい言葉をかけられて、頭を撫でられるのを待っていたのだと気づかされた。

「きっと充分すぎるくらいの愛を娘の貴方に与えたでしょうね」

だったら、男であることが悪かったのだろうか?
それとも、血が繋がっていなければ良かった?
そうすれば年が離れていても、瞳の色が違っていても、アスランは自分を好きになってくれた?

(母さんと同じ「好き」をもらえた?)

違う、そうじゃない。
浮かび上がった安易な考えに否定が塗り重ねられる。
男だとか、血が繋がっているとか、そんなことは些細で本当はどうでもいい。
少しでも、母と異なるところがあったのが悪かったのだ。
自分が女で瞳の色が紫であったなら、あの焦がれた腕の中に囲われて耳元に愛を囁かれただろうか。
キラ、と蜜を固めたかのような声で名前を呼んでくれたのだろうか。

「だから…」
「僕、かえる」
「あんたね、人の話を最後まで聞きなさいよ」
「…やだ」

キラが今のキラであることを否定される話なんてこれ以上聞いていたくなかった。
いくらそれが母のように姉のように慕ったフレイであっても、否信頼している彼女だからこそ聞くことが怖かった。

「もう、帰る」
「家に?」

従順な子どものふりをしてあどけなく頷く。
本当はアスランが待つ家に帰るつもりなんてなかった。
家は今、一番近寄りたくない場所だったけれど帰宅を匂わせなければ、世話焼きのフレイのことだ、きっと引きずってまで家に連行されるか、このまま泊まらせられてしまうだろう。
今は母の気配がする傍にはいたくないと強く思う。
自分が母の出来の悪いレプリカのように思えて、母のことを知っている人たちの目に映りたくないとさえ願ってしまう。
――最たるものがアスランだけれど。
母に恋をして、愛して、今でも焦がれ続けているキラの好きな人。
自分を見て母のことを思い出して、でも本物でないことを思い出して落胆なんてしてほしくない。
少しでも悲しそうな顔を見てしまえば、それが自分の存在を否定されているかのように思えて気が狂いそうだ。

「そう、そうしたらちゃんと本人に聞きなさい。きっとあの男分かってないわよ」
「知ってるよ」

アスランに知られていたら、きっと自分もアスランもこんなに傍になんていられない。
皮肉なことに、知られていないからこそこの恋は成り立つのだ。

「鈍感ほど性質の悪い人間はいないのよ」

その良い例があんたの父親よ、と心底忌々しげに呟かれる。
それがキラを案じる種類の言葉だと感じられて、さほど無理をせずに笑うことができた。

「そんなこと言わないでよ。それでも僕のお父さんには変わりないんだから」
「………そうね」

それでも口元に象ったのは、自嘲に近い淋しげなものでフレイの表情を曇らせる効果しか見せてくれなかった。



でもあの人が手に入るのならば、自分すら捨ててもいいと思っていたら、あなたは笑うかな?



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